勤務時間もお給金も考えてたらできない仕事
「藤十郎の恋」'38 山本嘉次郎 を神保町で。 長谷川一夫がかの有名な顔を切られた事件の後の第1作目ということで、クレジットが出るとき小さな文字で「林長二郎改め」と書いてあったよ。
滝沢修演じる近松門左衛門が、芸の道は戦場で兵士が戦う以上の精神力が必要だ、と言う台詞もあったくらい、長谷川一夫演じる坂田藤十郎は煮詰まって追い詰められ、芸に自信がありつつも新しいライバルのチャレンジ精神に怯え、何も出来ずに悶々とした日々を過ごすんだけど…。 肩を落として力ない藤十郎の、芸に対する苦悩が50分ほど続いた後やっと、二人が、つまり藤十郎とお梶(入江たか子)が顔を合わせるシーンが出てきて。 再編集版ということで元はもっと長かったろうに、コレではあと40分ほどでチャチャッと恋について語られて終わりかなぁ、と不思議がってたら…。あぁぁ~。
そんなに思い詰めた女性に今、思い出したように打ち明けるというのは、役の工夫のためと口悪い人たちに噂されても仕方が無いかもしれない。けど、死を意識せざるを得ないほどの孤独な苦悩の只中で、やっと彼女に10年来の恋心を吐き出す切迫した心境になったと言えなくもなく、何故そのようにわたし(観客)が思いあぐねるかというと、彼の気持ちを不意に知らされたその後の彼女の決着のつけ方にまず、芸の肥やしにされたわけではないと願いたいのもあって、何より藤十郎が彼女よりも一座の渾身の芝居、新しい狂言の幕開けを選んだときの表情が、そしてその幕開けの音を鳴らす信頼すべき吉左衛門(藤原釜足)の表情が、好いた女の哀れな旅立ちをも見送ってやれない芸の道のつらさを表現しているんだろな、と感じたんだけど…。
何に感激したかって、長谷川一夫が役者としての死をも覚悟した実際の事件を乗り越えての東宝移籍復活作品で、「死刑の宣告を待ってるかのような」苦悩に喘ぐ日々の後にある新しくて迫真の、賑やかで大入りの、坂田藤十郎の新境地がうれしく、その大事なところのキー・ウーマンな、立ち上がる為の糧になれたお梶にとっては恋する女の究極のかたちでもあるなぁ、なんて思ったりした。あと芸仲間として吉左衛門だけが真剣に相談に乗り、支えてくれてたのはうれしく、そんな藤原釜足がかっこよく見えたし。(『旅役者』での芸道の頼もしい精神性につながる、か!?)
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